池の中の図書館

図書館は、どこに建てるのがいいんだろう。駅前。市役所の隣。公園の中。いろいろ考えられるけれど、松原市が選んだ答えは、池の中だった。松原市民松原図書館〈読書の森〉。初めて見ると、図書館というより、何かの遺跡みたいだ。大きなコンクリートの塊が、水の中にどっしりと立っている。ずいぶん不思議な図書館である。
古墳みたいな図書館。


この形には、ちゃんと理由がある。松原周辺には、古墳やため池が点在している。そこで、この土地に昔からある風景をヒントにして、建物そのものを古墳のような存在にした。流行の建築というより、100年後にも「なんか昔からここにあるな」と思われる建築。そんなことを考えてつくられたのだという。新しい建物なのに、目指したのは、古くなることだった。
中に入ると、意外と軽い。
外から見ると、かなり重そうだ。分厚いコンクリート。小さな開口部。要塞にも見える。ところが中へ入ると、印象が変わる。吹き抜けがあり、階段があり、フロアが少しずつ高さを変えながらつながっている。1階から3階まで、ひとつの大きな空間を歩いているような感覚。建物そのものが、ちょっとした探検になっている。本を探しているだけなのに、気がつくと違う階にいる。図書館なのに、歩き回りたくなる。
本を読む場所は、一つじゃなくていい。
1階には一般書。2階には雑誌や新聞を読めるスペースや自習室。3階には児童書。約30万冊の資料を所蔵している。でも、この図書館で面白いのは、蔵書の数だけではない。階段。吹き抜け。窓際。池が見える場所。少し高さの違うフロア。建物の中を歩きながら、自分が落ち着く場所を探せる。図書館というより、巨大な「居場所」の集合体みたいだ。
屋上とテラスまで行ってみる。


晴れている日は、屋上の展望広場も開放される。ここまで来たら、上まで行ってみたい。屋上からは景色がそれほど見えなかった。だけど。開放感のある屋上はとても心地がいい。景色を楽しむにはテラスがいい。見えるのは、松原の街。ものすごい絶景が待っているわけではないのだけれど、それが好きだ。住宅街。生活道路。いつもの大阪の郊外。そんな普通の街を少し高いところから眺める。絶景ではなくても、ふだんの街を眺める場所は、案外貴重だ。
図書館は、本だけの場所じゃない。
本を借りる。勉強する。調べものをする。もちろん、それが図書館だ。でも〈読書の森〉に来ると、図書館にはもうひとつ役割がある気がしてくる。ただ、いること。池を見る。建物を歩く。気になる本を一冊開く。屋上から街を見る。そして、なんとなく、ぼぉっと過ごす。何かを買う必要もない。何時間いたっていい。これだけ立派な建築なのに、やることは、ぼんやりすることでもいい。それが公共図書館の贅沢なのかもしれない。知らない街の素敵な図書館に行く。それだけでなんだか充実した1日になる。
